特別企画※2

信山プロデュースとは何か

主宰・信山E紘希が面白いと思った既成の演劇作品を、主として札幌のキャストで上演するユニット「信山プロデュース」。実験的かつ上質なエンターテイメントを作り続けており、『人形の家』ではさらに豊かな作品づくりに挑戦します。信山プロデュースの設立背景やコンセプトなど、その裏腹を紹介します。

(文章=信山E紘希)

「信山プロデュースとは何か」とはまた、タイムリーなタイトルをいただいたものだと思います。

札幌で演劇をやる以上目を背けるわけにはいかない大先輩から「お前の腹がみえねえ、どんな芝居をやりたいのか全然みえてこねえ」と鞭撻を受け、どうしたらいいのだろうと本気で悩み、信山プロデュース旗揚げ時に仲の良かった女の子に久しぶりに「ちょっと話聞いてもらえない?」とLINEをしたはいいものの、既読無視されているタイミングで。

時系列でお話するのがいいかもしれないと思ったので、とりあえず書き始めましょう。

信山プロデュースの旗揚げから2年遡る2015年、僕は所属している座・れらで『空の村号』(篠原久美子作)という作品を作りました。

<福島の美しい里山で暮らす酪農一家の長男、楠木空は小学5年生。2011年3月11日に東日本を襲った大震災と原発事故で家族も村も大きく揺れ動くなか、空は取材に来ている映画監督から、本当のことを映すのがドキュメンタリーであると教わる。しかし、空は家族や友達の震災後の様子を見ていると、本当のことなんて面白くないと感じてしまう。そこで空は夢に生きる男になることを決意し、本当のことがひとつも入っていない映画を撮ることにした。タイトルは「宇宙海賊船・空号の冒険!」>(劇団仲間HPより引用)

僕が演じる空君は、故郷を去る車の中で両親が揚げてくれた大きな大きなこいのぼりを見つけます。それは空君にとって、この村に帰ってくるという唯一の希望の象徴に感じます。

というラストシーンを作っているとき、毎回思っていたのです。この真っ暗闇のなかで見つけるほんの少しの灯り、既視感。

それが僕が以前観た、後に信山プロデュース旗揚げ公演として上演される『桃の実』という作品でした。初期の作品で信山の右腕(腕毛でもじゃもじゃです)になってくれた山木眞綾(クラアク芸術堂)に、『桃の実』というすげえ作品があるんだと熱く語りました。

山木は言いました。「じゃあやんなさいよ。」

信山プロデュース結成前夜です。

僕の高校時代の恩師がこう言っていました。

「世界には素晴らしい戯曲がたくさんある。にもかかわらず新作を書くなどということはおごりに等しい」と。

その言葉は新作を書く自分たちに対する戒めであり、僕は「こんなにすぐれた戯曲があるのに、それをやらない手はない」と解釈しました。

オシム監督も言っていました。「古い井戸に水が残っているのに、どうして新しい井戸を掘るんだ?」

そうして既成台本をやるんだというコンセプトは決まりました。しかし軸になるのはなんだろう。

ここで信山プロデュース皆勤賞の遠藤洋平について少し書かねばなりません。

遠藤洋平というのは信山にとってジェラシーです。

最初は嫌いでした。北海学園大学演劇研究会の公演パンフレットで演出と紹介されている遠藤くんが、裸になってギターを抱えていたのが気に障ったからです。彼が数々の客演に呼ばれだした時も嫌でした。あいつより俺は芝居ができると思いあがっていました。

そんな折、前述の『空の村号』を創作している最中に、劇団アトリエ第17回公演『半神』で遠藤くんと共演します。

遠藤くんも僕のことを意識してくれていたようでした。大学の同輩から、信山というやばい奴がいるという話を聞いていたようです。僕は初対面の遠藤くんに、その日の朝に起こった話(あまりにひどいため紙面ではカットいたします)をしました。大笑いしてくれた遠藤くんを見て僕は安心しました。ああ、彼は大丈夫な人だと。

その後も遠藤くんは僕の数々の失礼なボケに対応しながら、質の高い作劇を続けました。そして僕だけでは到達できないところに作品を持ち上げました。さらに、僕が舞台上で迷った時の道しるべまでつけてくれたのです。

僕はもっと遠藤くんと芝居をしたいと思いました。

既成台本をやる。遠藤洋平と芝居を作る。
この2つが信山プロデュースの軸であり、欠かすことのできないものです。

信山プロデュースで上演したい作品は常にストックが10本程度あります。

実現可能なもの(技術的・版権的)を考えて、出す順番を考えて、とやっているうちに、次にできそうなのはこれと絞られていきます。

『人形の家』は、自分がもう少し大人になってからかなあと思っていたのですが、訳あってこのタイミングになりました。

でも、今の日本をみると、いいタイミングだったような気がします。なにか抗えないものには抗わず、ひっそりと税金を払って死んでいくのがよしとされている気がするのです。一人の女王蜂を支えるためだけに動く、単細胞の働き蜂になっていないだろうか。

『人形の家』の主人公ノラに全部を背負わせるわけにはいきません。
だから観て頂いたお客様に、既に指してしまった一手に「待った」をかける勇気を出してもらえるような、そんな舞台になってくれればいいなと思っております。

2020年4月3日〜5日、シアターZOOにて上演です。