特別企画※4【対談】

誰かの人形にはなりたくない

信山プロデューサー、演出の相馬日奈、出演者3名(深浦、佐久間、みきと)で作品のみどころや魅力、稽古の様子などについて対談しました。
転載元:札幌演劇情報サイトd-SAP

社会に窮屈さを感じている人にこそ、『人形の家』は絶対楽しんでいただけると思います。

人間の生きている模様が滑稽で面白い

(聞き手=佐久間泉真)

ー 信山プロデュースとはどういう団体ですか。活動コンセプトを教えてください。

信山:信山プロデュースが目指しているのは、わかりやすく言うと、ハンバーガー屋さんでいったらロッテリアなんですね。

一同:(首を傾げて)う〜ん……?

信山:ロッテリアは、リーズナブルな価格でありながら、何をしでかすかわからない。あそこは、「コアラのマーチシェーキ」から「キムチシェーキ」までやっているんです。まさか、というようなことを次々とやるのがロッテリアなんですね。
信山プロデュースは、そういうところを目指したいなと思っています。クオリティは必ず保証しつつも、次何をしてくるかわからない団体でありたい。既成の上質な脚本を選びつつ、幅はこんだけ振れるぞ、というのが信山プロデュースです。

参考:信山プロデュースとはなにか|特別企画※2


ー たしかに。『桃の実』『櫻井さん』『噂の男』ときて、まさか次がイプセンだとは思わないですね。

みきと:並びを見ると、次も日本の現代戯曲かなと思っちゃいますよね。

信山:『噂の男』をやって、この路線でお客様にご満足いただけたかなと手応えがあったので、次に全く違う作品を上演しても、信山プロデュース作品ということで観にきていただけるんじゃないかなという風に思ったんですよね。
ただ、当初は『人形の家』はもう少し後にやる予定だったんです。でも考えることがあって、このタイミングでということになりました。
俺たち、黙っちゃっているんじゃないかなと思うんです。体制とか、社会とか、権力とかに対して、口を閉ざすことが美とされ、何も考えずにそれに従っちゃっているんじゃないかなと。
だからこそ、声を上げる力のある人を描くことで、もう一度自分たちの生きている国について、また人生について考えられるんじゃないかなと思いました。
でも、堅い芝居にはしたくないんです!そういう思いは根底にはあるけれど、目指すのは観ていて愉快で楽しい作品です。


ー おかしくて面白い作品ですよね。

信山:そうなんです。お気軽に、午後8時からのバラエティ番組を見るのと同じような気軽さで楽しめる作品です。

深浦:コメディですよね。喜劇的です。

信山:あらすじを読むと、コメディとは全然思えないんですけれど。それがもったいないんですよね!ただ、僕らはギャグコントを作っているわけではないので、あんまりコメディですよと強調したくはないし。

みきと:人間の生きている模様が「結果として、コメディになっている」っていう感じですよね。他人のてんやわんやを覗き見ていて、それが面白い。

相馬:以前、ナショナル・シアター・ライヴの『ハムレット』(カンバーバッチ主演)を観たとき、海外古典も意外と身近だなと思ったんです。
シェイクスピアをやるときとか、400年も前に遠い地で書かれた物語なので、私はその時代に生きていないし、とか勝手に思ってて、理解できないものとして解釈していた部分があったなと。でも、登場人物が何に悩み、何に笑い、何に立ち向かっているのかは、現代の私たちと同じなんだってことに気づいた。それから、『人形の家』にも共感できることとか似ている感覚があるんだって発見がたくさんありました。

みんなで劇を作る時間が好き

ー 『人形の家』の演出に、相馬日奈を起用したのはどうしてですか。

信山:相馬日奈の代表作といえば、『お願い!振り向いて』(2018年12月、シアターZOOにて上演。作演出は相馬日奈)ですね。これに佐藤みきとが出演していて、「ああ、みきとをよく活かしているな」と感心したんです。
みきとは高校生のころから知っているんですが、自分のことを活かしきれていないんじゃないかなと思っていました。高校卒業後も色んなところで出演していましたが、『おねふり』の相馬演出は、みきとを活かす、という点でどの演出家も超える圧倒的な演出力だったんです。
相馬日奈は演出家として、人を活かす才能があるなと確信しました。
その頃ちょうど『人形の家』の演出を探していたので、みきと本人に「日奈はどんな演出をしていたの?」と聞いてみたら、みきとも「日奈にはもっと演出をやらせるべきだと思います」と言ってたんです。『おねふり』は自分の作演出だったけれど、既成の名作だったらどんな演出になるんだろう、そう思って声をかけました。

相馬:実は最初に声をかけていただいたとき、出演かと思っていたんです。

信山:「『人形の家』をやるので、協力していただけませんか」と送りました。

相馬:私は元々役者志望なので、劇団長(弦巻啓太)にも、信山プロデュースから出演の依頼が来たんですと相談をしたんです。

みきと:早とちり。

相馬:後から演出だって聞いて、びっくり仰天しました。たしかに『おねふり』は、みなさんから好評をいただいたのもとても嬉しかったし、自分の中でも自慢の作品になりました。でも、それは自分の脚本だったからっていうのは大きかったと思うんです。あの話は私自身の恋が下地としてあったので。
既成の脚本となると、作者の意図を吟味することがものすごく重要になってきます。まだまだ経験の浅い私が、しかもイプセンなんて、到底私には無理だと、最初お話を受けたときに思いました。でも、断る理由はなかったんです。できる!とは思っていなかったんですけれど、飛び込んでみました。逃げちゃダメだな、て。


ー 2019年秋には別役実作品にも演出で挑戦していますね(弦巻楽団 秋の大文化祭!『飛んで孫悟空』)。その頃と比べ、自分の演出家としての成長を感じることはある?

相馬:あります!別役実作品も大変だったんですけれど、多くのことを学びました。
今回は、役者の色んなトライを引き出したいと思っています。色んなパターンを試したい、試していただきたい、という演出意図をしっかりと伝えていこうと思っています。


ー さっきの稽古でも、「みきとさんの引き出しにはないものを見たい」という演出があったね。深浦さんは、これまで多くの演出家と一緒に作品作りをしてきている思いますが、相馬演出の特徴とかは感じますか。

相馬:え、言いづらいでしょ!

深浦:作品や自分の好みのやり方に合わせるんじゃなくて、役者一人一人に合わせた演出ができる人だなと思います。すごく人を見ているし、この役者はどういう人間なのかとか、観察力があるなあ、と。この役者にはこう言えば響くとか、そういう言葉の取捨選択も上手だなと思って。とっても良いです。すごくやりやすい。
作品についてしっかり話し合う時間も用意してくれるので、建設的ですごく楽しいです。


ー 作品についてしっかり話し合う時間、僕も好きです。演出家と役者で、作品の根幹や方向性を共有する作業を積み重ねていきたいなって。

相馬:方向性や目指しているものはしっかりと共有するんだけれど、そこに辿り着くまでの速度や辿り着き方は、人それぞれだと思います。やり方まで統一する必要はない。私の役割は、方向づけだなと。

みきと:演出家と役者で、相互に意見交換やキャッチボールができる。

深浦:能動的になれる稽古だよね。「自分はこう思います」と意見しやすい。

相馬:そうやって意見してくださる方々をキャスティングしました。台本上の人数の制約や、組み合わせのこととか、演技力のことももちろん考慮しているんですけれど、特に意識したのは、「演劇作り」が好きな方を選びました。演技するのが好き、というのも大事だと思うんですけれど、「みんなで劇を作る時間そのもの」を好きで一緒にやってくれる方と作りたいなと。

誰かの人形にはなりたくない

ー 作品について話を戻すと、初めて『人形の家』を読んだときの感想はいかがでしたか。

深浦:
すげー面白かった!!まず物語の力が大きいし、人間を描いていて普遍的な部分もあるし。
さらに稽古が進んでいって思うことは、今の時代って「言えなくなっている時代」だな、と。ちょっと倫理的なことで周りとズレがあるとすぐ炎上する社会。SNSを見ていても、これで許さない人がたくさんいるんだ、ていうケースが増えてきたなと感じます。「正しく生きなきゃいけない」という縛りが強くなってきているんじゃないかなと思うことが多くなりました。
もちろんだからといって、ズレるのがいいとか倫理的におかしいのがいいとかは思わないんですけれど、そういった社会に窮屈さを感じている人にこそ、『人形の家』は絶対楽しんでいただけると思います。
「私も規範からズレよう!」という感想を持って欲しいというわけじゃないんだけれど、この作品を見ることで少しでも救われた気持ちになってくれるといいなと。この物語は社会の枠からズレる人が出てくるので。
好きなセリフで、主人公ノラが「あたしは、もう、世間の人の言うことや、本に書いてあることには信用がおけないの。自分自身でよく考えて、物事をはっきりさせるようにしなくちゃ」と言います。例えば僕はAmazonで何か買うときも、レビューとかすごい見ちゃうんですよね。周りの様子を見て物事を判断する、ということが起こりすぎている気がする。そうじゃなくて、自分自身で判断する、考える、そうやって生きていきたいと思うことがある人は、ぜっっったい楽しめる。


ー 「誰かの意見」に委ねないと判断や選択ができない、みたいなことですよね。

深浦:社会生活をしていたら、組織にいたら、そういう生き方が求められるかもしれない。でも、そういう社会に対して「でも私は、」と思っている人もいると思うんですよ。


ー 誰かの人形にはなりたくない。

深浦:そうそうそう。正しくはないとしても社会規範からズレたい、というノラに共感できるんじゃないかな。


ー 『人形の家』は、女性が男性中心社会から立ち上がる話、と一般的に紹介されますね。たしかに「性別によって扱われ方が違う」というのは物語の重要な要素になっています。でも、規範からズレるとか、周りに合わせちゃうとかという心理は、性別の問題ではなく、人間としての生き方の問題ですよね。

みきと:男性俳優だけで『人形の家』と聞いたとき、最初は気持ち悪い感じになっちゃうんじゃないかなと思ったんですが、実際に通してみると、すごく真っ当だった。


ー 男性俳優のみでやっても、『人形の家』の根幹にあるものは変わらず浮かび上がるというのは、すごい試みですよね。

相馬:「女性だから」という視点を外したかったんですよね。劇中にもそういうセリフがいくつかあるんですが、「女性は感情的」とか「ヒステリー」とかそういう風に言われがちじゃないですか。ノラの最後の決断を、「ノラは女性だからそうした」と短絡的に考えたくなくて。だからこそノラを男性が演じることにより、ノラという一人の「人間」の決意を描けるんじゃないかなって思った。

参考:なぜ「男性俳優のみ」なのか|特別企画※3


ー 男女関係の話というより、人間関係の物語として見ることができるかもしれない。あとは、セリフの掛け合いがすごい面白い。

深浦:面白いね。はっきりと物を言わない、匂わせのセリフも多いから、役者が「これこういう意味じゃないか」といっぱい話せる本だし、見ている人にとっても色んな楽しみ方ができる。

信山:カップルやご夫婦や、親友などの密な関係な人と一緒に観にきてくれたら、新たな展開があるかもしれません。ぜひ観にきていただきたいです。


ー そうですね。公演は 4月3〜5日、シアターZOOにて。お待ちしております!